宅建士試験の「権利関係」でよく出題される抵当権は、条文自体はシンプルなのに、判例がからむ肢になった途端に正答率が下がる分野です。今回は過去問(平成25年問5)を題材に、初心者がつまずきやすいポイントを整理していきます。
実際に、こんな一肢に出会ったことはないでしょうか。
抵当不動産について第三者が不法に占有している場合において、抵当権設定者が抵当不動産を適法に維持管理することが期待できないなど特段の事情があるときは、抵当権者は、抵当権に基づく妨害排除請求として、その不法占有者に対し、自己に対して直接明け渡すよう請求することができる。
一見難しそうな言い回しですが、実はこの肢を解くカギは、「抵当権者」と「抵当権設定者」という、名前の似た2人の登場人物の役割を正しく区別できるかどうかにあります。
抵当権には2人の登場人物がいる
抵当権を勉強するとき、まず整理しておきたいのが次の2人です。
- 抵当権設定者……お金を借りて、自分の不動産を担保として差し出した人。多くは借主本人ですが、他人の借金のために自分の不動産を担保にする「物上保証人」というケースもあります。不動産の所有者であり続け、普段どおり住んだり、人に貸したりできます。
- 抵当権者……お金を貸した人(銀行など)。不動産を実際に占有するわけではなく、「返済が滞ったら、この不動産を売って優先的に回収できる権利」だけを持っています。これを「非占有担保」と呼びます。
家を担保に入れても、返済を続けている限りその家に住み続けられるのは、抵当権が「取り上げる担保」ではなく「価値だけを押さえておく担保」だからです。この構造をイメージできると、抵当権の判例問題がぐっと読みやすくなります。
まずは基本の一肢から――借地上の建物と抵当権の効力
この過去問には他にも3つの肢がありますが、正解は「建物に抵当権を設定した場合、特段の事情がない限り、その効力は建物だけでなく、建物が建っている土地の利用権(借地権)にも及ぶ」という記述でした。
理由は単純です。建物だけ競売で買っても、土地を使う権利がついてこなければ、買った人はその建物をどかさなければならず、建物としての価値がほぼゼロになってしまいます。それでは抵当権を設定した意味がなくなるため、「建物に抵当権を設定したら、土地を使う権利もセットでついてくる」と扱われるのです。
本題――不法占拠者と、抵当権者・設定者の役割分担
冒頭の肢に戻ります。抵当権は非占有担保なので、原則として抵当権者は不動産の使用・収益に口を出せません。持ち主である抵当権設定者が自由に使うのが基本です。
ところが、第三者が不法にその不動産を占拠し、それによって不動産の交換価値(競売したときの値段)が下がり、抵当権者が優先的にお金を回収する権利の実現が難しくなる場合には、話が変わってきます。
判例は、次の2段階の救済を抵当権者に認めました。
- 抵当権設定者(所有者)が本来不法占拠者に対して持っている「出ていけ」という権利(妨害排除請求権)を、抵当権者が代わりに行使できる。
- さらに、抵当権設定者が物件をきちんと管理する意思や能力を欠いているなど特別な事情がある場合には、抵当権者が自分自身に対して直接明け渡すよう不法占拠者に求めることまでできる。
つまり冒頭の肢は正しい記述です。「抵当権者は所有者ではないから不法占拠者に文句を言えない」「代位行使はできても自分への明渡しは絶対に求められない」と考えてしまうと、誤答してしまいます。
抵当権者と抵当権設定者は法律上まったく別の立場を持つ人ですが、不動産の「価値」を守るという共通の利益がある場面では、抵当権者が設定者の権利を借りて行使したり、事情によっては自分自身への引き渡しまで求められたりする、という点がこの分野のひっかけになりやすいポイントです。
あわせて押さえておきたい2つの論点
- 物上代位と弁済期……抵当権者が抵当不動産の賃料債権に物上代位するには、被担保債権の弁済期が到来していることが前提になります。まだ返済期限も来ていないのに家賃を差し押さえるのは、貸主に都合が良すぎるためです。
- 順位変更の効力要件……複数の抵当権の順位は関係する抵当権者全員の合意で入れ替えられますが、効力が生じるには合意だけでなく登記が必要です(民法374条2項)。合意だけで足りると考えると誤答の原因になります。
まとめ
抵当権は「誰が何を持っているか」を図で整理すると、一気に理解しやすくなります。
- 抵当権設定者は不動産を所有し、自由に使う権利を持つ
- 抵当権者は不動産を占有せず、価値を押さえる権利(優先弁済権)を持つ
- 不動産の価値が不法占拠によって害されるときだけ、抵当権者は設定者の権利を代位行使したり、自分への明渡しを求めたりできる
この2人の役割分担を意識しながら過去問を読むと、ひっかけ肢に惑わされにくくなります。宅建士試験の学習記録は今後もこのマガジンで発信していきますので、よろしければフォローしてお待ちいただけると嬉しいです。

